封仙娘娘追宝録・奮闘編(4) 夢の涯<封仙娘娘追宝録> (富士見ファンタジア文庫) ... ろくご まるに

封仙娘娘追宝録・奮闘編(4) 夢の涯<封仙娘娘追宝録> (富士見ファンタジア文庫) ...

 

ろくご まるに

私の一番好きな作品が、この本の最後の作品です。クローズドサークルに現れる語り手。イメージ的には金田一耕助宝貝の「事態収束」劇。蓋然性と便益に叶う目的遂行能力。

まず未読の方へ
目次 
暁三姉妹密室盗難事件顚末
夢の涯
西の狼、東の虎
雷たちの饗宴
刀鍛冶、真淵氏の勝利 
あとがき

このように、夢の涯はこの本のラストではない。まず表題作。散々本編で、死にそうなラインを行ったり来たりしている和穂だが、今回の相手は本当に和穂を死線に追いやった相手だ。でもだからこそ死に際の和穂がまとめられたのだろう。こういう教戒師、聴罪師向きの「心の平穏」を提供する悪人も、ファンタジーのメインキャラとしてメジャーではある。死神ものの宝貝と言える。こういう道具を「看病に用いる」能力物の主人公も読んでみたい気がする。作品次第で非業の死や無念ばかりの群像劇がーギャンブルものを含めて多いわけだし。

最後の作品が私が一番、作中で「目的に沿った機能を発揮できる」道具らしい道具、だと考える。もし宝貝や能力物を語るならこれを基準にすべきでないかと思えるくらい、目的達成能力が高い宝貝。それに立ち向かうのが導果筆先生。使用者は題名にしか個性を出さず、様子を伺っている宝具がランプの魔神の如く、状況を操作してくる。ただし、状況を支配しきっているからこそ。使用者の便益を思量するからこそ。より高い理想的勝利を提示されたとき、口車に乗らざるを得ず、win-winの構図を敗者に提示されても自発的に実行してしまった。使用者の意図を察して実現する、道具の機能の原点に接していたからこそああなった。
雷たちの饗宴で、以前平行世界が語られるからこそ、心象世界に続いて、最後の作品のとんでもない能力が登場できた、と言う気もする。

最後の作品の能力が好きな人は、灼眼のシャナやレジンキャスト⚫ミルクの世界観もオススメなために是非読んでみてください特にアイテムの出るシャナ。IFと蓋然性によるクローズドサークルの完成、推理ものらしい状況に仕上げた最後の宝貝は、蓋然性を収拾する能力が高い物書き導果に丸め込まれたわけである。うん、蓋然性の舞台で、導果を「語り手、演者」に持っていったところで、丸め込まれる布石になったわけだ。それ、ちゃんと使用者に確認しなきゃ。

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と思っていたが違う!!まんまとはまってた。導果が「探偵とは、一人の被害者で済む完全犯罪に首を突っ込んで、必要の無い被害者を何人も出す不完全犯罪にしてしまうものだ」と発言していた。探偵ブーム。
ところで、理合珠の機能は本当に凄いのだろうか。夢の涯で語られるように、「複雑な機能を持つ宝貝ほど気迫を感じる」、とあった。理合珠もそうなのだろうか?召喚能力の宝貝のように、「発動しているうちにどんどん条件が曖昧になってしまう」タイプのものではないだろうか。故に、必要な相手以外まで大量に巻き込んで「詰みの側の悪あがき故に膠着」と言う状況を作るのかもしれない。ああ、この回の解決法が「名探偵登場」的なものだったことで巻末作の特徴を掴めただろうに。

巻頭部を読んで。刀鍛冶、真淵氏がどんなキャラなのかに気付けば良かった。「事態の把握」「事件の解決」この言葉を繰り返すキャラだった。このものにとっての勝利とはー「宝貝の回収者を追い返したのだ」「自分の宝貝が負けるわけなかったのだ」とは。
「事件の解決、をやるのは必勝である私の宝貝以外あり得ない。だから、宝貝の回収者は、登場する前に「誰かの宝貝により起きた事件が、刀鍛冶宝貝の手により解決」したことで、追い返されざるを得なくなる」、と言うことだったんだ。いや、探偵役のあんたの宝貝が捕まるケースを気にしようよって話で。つまり、真犯人は宝貝を持っていないし、使わずに外傷なく事件を起こした。
ああ、ソードワールドシリーズ、ドワーフの迷探偵デュダと同じタイプかよ。
「私が事件を解決してあげよう」と言った導果の、謎解きチックな雰囲気の時に重圧がかかるわけだ。誰よりも、事件の解決役は理合珠であって欲しかったんだから。

そして、事態の犯人について。恐らく、最初の一人である宿屋の主人以外は理合珠が起こしたもの。同様の事件を起こして真犯人をあぶり出す策の延長として、模倣犯を繰り返して検証と様子見をしているわけだ。
所有者の望みと使い方は、理合珠が探偵役として、引き立て役である宝貝の回収者を出し抜く解決劇なので、面倒なことをしている。この事件は「夢の涯」の作中話の延長。殺人者である緩終鎖の持ち主の尻尾をつかむために、犠牲者になりそうなこれまでと同じ状況の被害者候補を、犯人の前に用意する。折り合いの悪いしがらみのある医者に似たことを理合珠はしている。

さて、真犯人は誰か。女医の瑞雅である。三毛猫の雌雄判別や作中での発言が示すように、大変な嘘つき。一方で正直に話すべきものはヒントも含めてちゃんと出す。ここら辺は暁三姉妹と同じ。一番嘘らしいものが「だってね。ーって全然私好みの男じゃないんだもん」。真実が「まあ、ーの初恋の人が私ってこと!」。はっきり言おう。この女は惚れっぽいタイプ、と言うことで短編二巻の刀と同じタイプだ。さらに言えば、「鍛冶が得意だから、医者になった」という趣旨の発言に対して、意中の相手に思わせていることは「骨折の処置や縫合など外科が得意で、薬学は専門でない」と言うこと。
まず動機はなにか。複数あると見るがー最大のものは、幼馴染みの船乗りと非日常をずーっと一緒にいられること、だろう。この話、二週間に一人と百五十一人が倒れて、部外者の和穂を入れて十三人残ったと言うもの。何で女医の幼馴染みは倒れていない。その根拠となる最大のものが、「船が出せない四十年に一度の潮」が起こったこと。理合珠が起こしたことであるが、事件が起こっていようがいまいが潮が出ていれば材木を運ぶ船乗りは島を出られない。
さて、二番目の理由はなにか。恐らくは本当だろう、「島の人間が健康でつまらない」と言う台詞から。つまりは愉快犯的な性質が強いのだろう。
三番目に、「大工仕事の基本」「最初は下手だったけど、段々面白くなって、面白くなると出来もよくなった」といっているのがベッド→棺桶の話だったが。台に描かれていた模様は「符でなく太鼓判」だった。犯人は、処分したかもしれないが太鼓判という物証を用意したはず。ようは作った太鼓判の出来が良かったので使いたくなった、と言うことか。

四番目に、推理劇で犯人として動機の告白をしたかったから。犯罪の告白と会わせて幼馴染みの船乗りへの告白もしたかったのだろう。

 

その根拠はなにか。

始めに、巻頭部で医者が突然笑い声をあげた、こと。完全犯罪に終われば嬉しいだろう。
二つ目に、導果が宿屋の主人の被害の検証をしている際に、台の臭いを嗅いでいたとき。「余計な横やり→うちの家系って案外素直なのね」と撹乱してきたこと。臭いを嗅いでいるときー「面白い臭いがするが」と言われているときまぜっかえすのは、毒を盛った犯人だ。犯人である本人以外に医者がいないんだから、毒の使用を気付かせないのは訳無いだろう。診断役が嘘つき。
毒と分かるもう一つ。臭いで分かるのが「米と魚と味噌と醤油」だったから。味噌が味噌汁ようでないなら味噌をつけるおかずが抜けているし、それは植物だろう、キュウリとか。その痕跡が無かった。それにー宿屋の主人が発見されたとき、椅子に座って卓に向かい前のめりに倒れていた、とある。外傷がない以上内服物が原因だろうが、医者が秘匿する上に。椅子に座って卓に向かう理由が食事なのに、発見当時、食品や食器などその痕跡が無かった。犯人が処分したと考えるのが妥当であり、そんなことをする理由は食事に毒が盛られていたから。酒や茶等のための器も線ではあるけど。大勢は変わらない。
家事が得意、とあって導果に茶を出していたことから、この女医は薬を盛る趣味がある。薬学は専門でない、と偽る辺りも犯人らしさ。
最後が決定的。愉快犯らしい「犯行声明」を机に残したから。少数民族のレア言語で二字。「敵」「讐」と残した。「てき、しゅう」これは洒落で、作中の使用言語は不明だが日本語の音に当てはめて考える。暗号として扱い「どく、しゃい」と字をずらす。「どく」は毒のことであり、「しゃい」は医者を示す。自分が犯人ですよ、と遊んでいるんだ。
被害者のダイイングメッセージではない。犯人にばれることを気にしようと、ダイイングメッセージに短時間で少数民族の言葉を思い付き、こんな紋様を用意できる訳がないからだ。その場合太鼓判は被害者の脇にあるべきだし。犯人の遊びだ。
そしてー宿屋の主人以外は別な犯人による模倣犯であった。それを、紋様ー太鼓判が示す。理合珠はこの言語を知っていて、それでも解けなかった。だから二人目から百五十二人目までに押した紋様は全て形式だけ真似た意味の無いものとなった。初めの被害者以外は犯人が別、という証拠を模倣犯自ら示してくれた皮肉な結果となった。
以上が刀鍛冶真淵氏の勝利、の秘密であり真相である。と私は思う。
ーただ単に公表されないだけで、この筋道に気づいた人は私が初めてではないだろう。それでも話題にならず今に至る、か。気づかない人が損している気がする。
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なお
暁三姉妹密室盗難事件の実行犯について。実行犯かは確実ではないが、それに近い存在はわかる。導果筆の元所有者、導果探偵の逃げ出した助手。探偵助手の貧乏人が犯人だったんだ。貧乏にとりつかれて、三十六の事件がショボかったならば、金策のために犯罪依頼を受けるのはありうる話だ。「探さないでください」。当たり前だ、犯人サイドで事情を知っていたんだから。探偵助手が逃げたのはろくな事態が待っていないから。逃げ出す原因が三姉妹だった場合でも導果だった場合でも、嫌気がさすなら事件の調査に着手する前に逃げるだろう。「身投げでもしそうな思い詰めた様子」は不味い事態になったから。
そもそも宝貝は必要としているものの前に現れる。元探偵助手が欲しかったのは「探偵」ではない。「化粧や変装、舞台道具を出せる宝貝」である。探偵の調査に使える、ではなく怪盗ー裏社会の盗賊がまず欲しがる能力だ。

多分、「実行犯と依頼者の関係が希薄」と言うのを依頼者だけでなく実行犯も感じていたんだ。故に、依頼者は危なくなれば実行犯の自分を差し出しかねないと判断した。それなりに導果は解決能力を持つ。一方、実行犯はいざとなれば共倒れにする、と依頼者を脅す手があったのだが。依頼者が三つ子の誰か完璧に特定する自信がなくなったのだろう。依頼者は特定されず実行犯だけ捕まりかねないと考えて探偵から逃げ出した。これが顛末なんだと考える。
まあ、実行犯が捕まらないまま依頼者を誘導した辺り、導果先生は最後は逃げた元所有者が「逃げる」ために十分煙に巻いた、と言う裏になるのだろう。