され竜 ハイライト モルディーンの名台詞。一旦私に命と理想を預けた君たちが、私事をもって勝手に自らの生死を判断することは許さない。 ー何故ウガウク⚫クは侵攻してきたか

されど罪人は竜と踊る十三巻、翼の在処。「だが、一旦私に命と理想を預けた君たちが、私事をもって勝手に自らの生死を判断することは許さない。私自身にも、そうすることを許さない。断じて許さない」

感動ものの決め台詞であるし、そして自供でもある。

モルディーンは自らにもこの規範を徹底している。自らが私事の策略で死ぬ可能性を冒さない。前の文脈から、モルディーンは、翼将達が「貎下のためにー」と不退転でいるなか「ここにいたけど、いなかったことになっている」の逆である「ここにいなかったけど、いたことになっている」形で安全な場所にいたのだろう。

「使い捨てであろうと転移術式が」と、使い捨てだと断定できたことが、モルディーンの差し金だったことを示している。三、四巻の経緯報告を見ての推察とするには、少し不用心すぎる。ヨーカーンが転移術式を流出させたケースをーまあ不利益な愚策であるがー考慮の外にしていた。確かに、なにもしなければ身内からさえ独占できる転移術式をヨーカーンが漏らすのはデメリットが多すぎる。が、そこを疑うのが謀略の御方の普段であろうに、ね。

さて、何故モルディーンはウガウク⚫クの侵攻を後押ししたのだろう。高位翼将が三人もいれば、龍皇国からウガウク⚫クを仕留めることは自然にできたはず。また、バロメロオの対タラテク渓谷案が美味しい構想だったことも事実である。何故タラテク渓谷の封じ込め案及び、古き巨人対イージェス教国の計略を捨ててまでこの戦いを招いたか。

結論を言えば、古き巨人とその下位に属する巨人族の切り崩し工作だろう。

バロメロオは頭痛を堪えるように言っていた。「古き巨人に大規模軍事行動をとれるものがどれだけいるか」と。一方でその配下の巨人の一個大隊は相手が相手でなければ勝利した、素晴らしい大規模軍事行動を実演して見せた。

これは巨人と古き巨人の解離が始まっていることを示すものかもしれない。

「これなる到着が遅れたばかりに、尖兵足る巨人たちには可愛そうなことをした」「巨人達の命の代価としてーモルディーンの命で償ってもらおう」。十四巻、嵐の予兆のルチフェロ騎士団下部組織たちには反省してほしいまでの部下への想いである。

一方で人間側に都合よく巨人達が全滅してから古き巨人が現れたのは、他ならぬ人間側の策略である。恐らくは指輪の方に細工があった。巨人と古き巨人の到着時間を離し、できるだけ任意のタイミングで到着させる仕掛けが。

ウガウク⚫ク一党をモルディーンが被害無く必ず仕留めるためにしても十ニ翼将を十人集めるのは過剰だ。恐らくは、オキツグが「鎮まりたまえ」「退いてもらうわけには」と持ち掛けた段階で退いてくれる可能性を高めるために、「勝ち目なし」とする示威能力を高めるために翼将を揃えたのだとみる。そこで古き巨人が信徒を見捨てて、言いくるめられた形にすれば、巨人に対する古き巨人の求心力を削ることができる。古き巨人の税制は不明であるが、納税者兼奉仕者である巨人が離れれば、本当に二度と立つことが出来なくなる状況が待っている。保護緩衝区内での無償給付生活という、鳥籠の中での漫然とした生活が演算される。

モルディーンならば十ニ翼将を捨てて生きる状況で、ウガウク⚫クは信徒の後を追って死んだということだ。モルディーンにとって最高の状況はオキツグが割り切らずに、最後まで退いてくれるように求め、ウガウク⚫クが応じて生きて逃げ帰る状況だった。実際にはウガウク⚫クは命を捨ててモルディーンの策を破ったとも言える。そして、モルディーンの利益は何か。尖兵がいなければ将軍たちだけで作戦行動をとってもその成功率は著しく下がる。巨人達の心を離れさせることは、古き巨人達の行動力を削る上で有効だし、あるいは巨人の別派閥と取引窓口を拓いているのかもしれない。古き巨人とは別個に巨人にも自治⚫保護緩衝区協定を用意しようかと持ちかける窓口を。古き巨人からの巨人の自立という美しい名目を餌に取り込むことすらモルディーンは考えそうだ。龍皇国の対外軍事会社経営において、巨人の派兵を請け負うシステムを確立すれば、商売敵に一気に差をつけられる。あるいは巨人の大規模軍事行動を後方から支えたのすらモルディーンの手の者かもしれない。彼らが練度を上げ、装備を近代化する中でも、仲介した卸売業者が存在すると考える方が自然だ。そこに絡めば自然と内情に合わせてこちらが待ち伏せすることも可能になるだろう。 

そして、ウガウク⚫クの台詞は古き巨人の新たな強硬派の動きが見られるとされる、翼将会議での流れと微妙に矛盾する。「何より、命を賭して進軍した信徒達の死を無駄にはできぬ」「タラテク渓谷は古き巨人とその信徒たる巨人の栄光を取り戻すための生命線だ。モルディーンを殺し封鎖を解くしかない」「ならぬ。退けば我らは二度と立ち上がれぬ」

「退けば、我らは二度と立ち上がれぬ」?だったらウガウク⚫クの死後も強硬派が途切れない現状はなんなんだ。「モルディーンを殺し、封鎖を解くしかない」→バロメロオによる「だからこそのー貎下の交渉ーと推測される。ーと思われる」という直属の部下にすら確定情報が入ってない内情と食い違う。ウガウク⚫クが封鎖の原点をモルディーンと断定した根拠が不明だし、「封鎖を解くしかない」と、「封鎖を引き出すと思われる」は時系列に矛盾がある。現地では既に封鎖が秒読みである、または既に封鎖が半ば以上済んでいる場合に言うべき言葉である。「保護緩衝区」「諌めに参上した」→国際的な交渉や意思表明もなしに国際ルールに背く形で封鎖が専行されていることになる。これ、モルディーンはモルディーンで両大国の、情報を知りうる政敵によって、封鎖の責任を押し付けられていないか。確定情報を都合よく捏造して、古き巨人に玉砕の覚悟を決めさせる力を持った誰かに。

 

なお、この件は全てモルディーンの手の内、というわけでもなく、危機回避も入っている。モルディーンの意図であれば、他の人類の国家に気前よすぎる真似はしない。ウガウク⚫ク達に最低限でも同盟、さらにはイージェスを噛ませてくる。もしくは貸しを売る。結果的にイージェスや同盟はリスク無く渓谷問題をクリアしたことになる。龍皇国だけが苦労した形になる。ただ、イージェス側の親古き巨人派は、イージェスと古き巨人が殴りあった際の弾圧を避けられてよかった、とはなるだろう。

これでデメリットを被るのは、現地の人類の隠れ信徒たちだろう。資源ナショナリズムのように、異貌の者達抜きで列強の、公共の福利のための強制接収から土地を守らなければならなくなる。資源ナショナリズムの失敗の果てはウムルンやピエゾだろう。資源ナショナリズムに噛んだ革命を扇動しているのが災禍王か?