ムシウタ アリスの摩理蘇生実験 徒然なるレビュー2

そもそもbug編は、摩理の死亡後すぐから練られた計画だった。
まず物言わぬ死体から記憶、魂の一部を取り出す。十四巻の鮎川千晴のように。
次に自らの力で水銀を媒体に、虫憑きから取り出した記憶の容れ物となるーモルフォチョウの形の分離体を作る。虫の記憶も、自らの虫に生前の虫の記憶を元にリメイクしたもの。でなくてもいい、虫本体がまだ生きてたなら、自らを仮の宿主とするためにも自信の記憶と融合させ練り上げる。
それを親友の虫はこれだったんです、ということにする。

そしてモルフォチョウを連れたまま学生生活を送る。親友のことを知りたい、という動機を秘めたまま虫がらみの事件に関わっている内に、接触してきた特環職員と行動を共にする。名家であることだけでなく話術と精神支配の能力にも自信があった。
そして節目として過去視ができる虫憑きの一件を手配させる。過去視の一件をきっかけに摩理の人格がリメイクされたモルフォチョウに宿っていると自他ともに認識を深めていく。必要な情報を持っていると見れば職員だって探索に付き合い続ける。
後は記憶を元にした演技を続けながらモルフォチョウの中の人格を定着、安定化させていく。物言わぬ死体からだけでは情報の収集が不十分なので、bug編の探索は不可欠だった。ハンターとして探していた不死の虫憑き、の探索も含めて。
摩理のことを調べながら歩くと共に大勢に「生きたいと願い続けた強い虫憑きがいた」と認識させて回る。ここら辺はミミックのイメージの集団による強化と同じ。
本当は特殊型のアリスの方が摩理よりも虫憑きとしての戦闘経験が高かったんじゃないか。それを敢えて。まず相手を見抜いた上でどう動くか絵図を描いておく。そしてピンチに摩理の人格が守りに現れ、予定通りの攻略法で逆転する、展開を演出してきた。つまり、宿った摩理の人格の立ち回りは摩理本人にすら気づかれない形で、実はアリスがプロットを立てていた。

そして色々なつながりを用意していく内に、摩理が甦りたい、と再び夢を強く願うシチェーションを作る。「次こそ摩理も答えを出して」ってむしろ期限切っているわけだし。大助が探索の邪魔できないタイミングで風邪を引いたことも考えれば、次まで持つかなって感じで体調を悪化させていったのも、薬物を自分で服用しての演出だったんだろう。
エルピレオーネが恵那を狙い出したため、彼女を守るために。という、まさに題目としてぴったりのシチェーションは意図的に作ったものでないと見るが。不死を追っていく内に、それを邪魔に思う強敵とぶつかるのは見えていたのだろう。ハルキヨに接触を続けることで彼を、摩理という虫憑きの王に仕える守護役として丸め込む気になったんだろう。
摩理を虫憑きにした、三びき目ー先生との記憶も、虫憑きとして甦らせるために重要だったのだろうし。
「利菜本人が来られないのは予定外だったが、代わりに大勢の強い虫憑きが来てくれたのは嬉しい誤算だ」というのは、むしろエルピレオーネ打倒、「はじまりの三びき打倒」という建前より。摩理復活のための儀式を整えることが主目的だったからだろう。自分に期待してくれるみんなのためにーって自分を求める人数が多い方がモティベーション上がるだろうし。
強い虫憑きを集めて取り決めて戦いを止めようって、国際連合を唱導したものが常任理事の中でも強い力を握るって形に近いし。

天使の薬と悪魔の薬にせよ、どちらのバージョンであっても。たとえ天使の薬を選ばれて体を乗っ取られたとしても、今度は自分が虫やロッドに宿る形でずっとおしゃべりしていられるよう用意してあったんじゃないのか。アリスが引き戻した摩理の願いが、次にアリスを引き合わせた、と奇跡を演出する予定だった。むしろアリスが虫やポルターガイストの宿る器ー少女人形の類から出発したと考えればそっちの方が相応しい。ローゼンメイデンのように。


さらに黒いことを言うなら。天使の薬と悪魔の薬の話、一玖が考えているようにアリスは捉えてないぞ。「初めはハンターの亡霊にとりつかれた運の悪い人にしか思えなかった」ってあきの感想に無言になったのも、そもそも主催者が亜梨子だからね。
「私も選ぶ。拒絶するのか、それとも受け入れるのか」「摩理も選んで。摩理のまま思い出になるか。私になって生き続けるか」これ、アリスの方がこの世の虫憑きの立場に立ってない、悪霊かアンデッド「あの世の人の形」だと考えると。むしろ悪魔の取引なんだ。


そもそも虫憑きが現れたのは最近のこの国の話であって、絵本が生まれた昔の外国のお話を、大切な人の体を乗っ取るか否か。って認識する方が異常だ。一玖も。亜梨子がいなければ摩理は手遅れなままだったと言う認識があってなお流星群の夜に、決断後まで付き合ったのか。相変わらず勘違いさんだ。悪魔の取引にたいしては、一玖が幻滅していた「どちらも選べなかったんじゃないのか。あれはひどく弱い」ってむしろ一般人的には名判断だ。
なぜか。
「天使の薬を選ぶ→大切な人を失う代わりに病が治りいつまでも生き永らえることができる」
→悪魔の罠。知人を生け贄にしてでも生き延びたがる奴、にとっての大切な人のカテゴリーには、当然誰よりも大切な自分自身が入っている。自分自身を抜かれた永遠の命って、不浄だ。
→「病が治りいつまでも生き永らえることができる、代わりに薬をくれた自称天使に大切な自分自身の霊魂を持っていかれてしまい、残るのは不死の肉体と仮初めの自我だけになる。」ミイラ映画みたい

一見良さそうな方を罠と断じて悪魔の薬を選ぶ。悪魔の薬によって死後、みんなの記憶の中で永遠に生き続ける好人物として葬ってもらう。銀幕の主人公のように。これも意図通りにいかない。
「悪魔の薬を選ぶ→病は治らない代わりに大切な人がずっと側にいてくれて。死後大勢の人がお墓参りに来てくれる」
→悪魔の罠。大切な人がずっと側にいてくれて。大切な人、の寿命に関する明記がない。死んだ後もずっと一緒にいる寿命と能力がある存在、ってそもそもこの世の人間のことなのか。さらに言えば「薬を提供してくれる人」って当然大切な存在だよね。寿命にまつわる薬というより、「ずっと側にいてくれる、実体の無い存在すら見え、おしゃべりし続けるようになれる魔術薬」であり、「死後も実体がないままこの世に留まったり、薬が作られた地獄の悪魔についていけるようになる幽体離脱の薬」である。

亜梨子の場合。まあ悪いようにはならない。
「天使の薬を選ぶ→大切な人、亜梨子が「人」としての本人を失うが、代わりに奪った媒体を用いて、摩理が摩理の姿の「人の形」を取り戻す。さらに水銀の特殊型虫憑きとしてこの世の人でなくなった「ありす」に憑いてもらう」「摩理の姿のまま思い出=「人の形をしたミイラ」として実体を得て、ミイラを操る虫憑きとなる」

「悪魔の薬を選ぶ→病は治らない=死んでしまったまま、今のまま、ストラップ付きの日本人形を媒体に、「生きた人間としての実体を持った亜梨子」が死んで実体を失った後も末永く付き合う、実体の無い虫となる」つまり、「「元々は実体の無い虫=亜梨子」が自ら作り出した器=肉体の側で、日本人形を器にした「単体では実体の無い虫=摩理」としてお互い器に宿りながら永遠に生きる。」

結局は
器を乗り換えたりあらかじめ用意したりして。箱庭のような世界で永遠に「お別れせずに、ずっとおしゃべりしていられる」生活を送る、それが一之黒亜梨子の狙いなんだ。ある程度bug編の肉体ある亜梨子の知り合いも人間の寿命の中で付き合っていくしはじまりの三匹との物語も続けるだろうが。
天使の薬と悪魔の薬。どちらにしても「実体の無い人の形=虫」亜梨子は「実体を失ってもまた調達できる人の形=虫となった人間」摩理と別れずに生きていくつもりだよ。


ていうか亜梨子と比べれば明らかにモルフォチョウしょぼい。結局八巻中盤でちょこっと描かれたけど、初めて虫憑きを見逃した後。あの時医学的に死んで。利菜と交戦した際に「致命的な何かに罅をいれられた」→みんみんのように実体の無い虫を攻撃する能力、があった七星に媒体を壊されて、虫憑きとしても願いを砕かれて死亡した。ということなのだから。
「また明日ね」友人と過ごす束の間の一日→数日を贈ってくれた、だけにとどまった。
結局摩理は人影に「天使の皮を被った悪魔に騙されてはいけない」と忠告される前に一般人としての寿命を失っていた。
一玖。必要なときに代役すら果たしてねぇ。